聖霊に送り出されて
「聖霊によって送り出されたバルナバとサウロは、セレウキアに下り、そこからキプロス島に向け船出し、サラミスに着くと、ユダヤ人の諸会堂で神の言葉を告げ知らせた」。 使徒言行録13.1-12

アンティオキア教会はバルナバとサウロを選んで、彼らを伝道に遣わしました。教会による派遣だけではなく、それはまた聖霊に押し出された神の業ということでもあります。使徒言行録(使徒行伝)が別名聖霊行伝とも言われるゆえんです。
最初に訪れたのはキプロス島でした。現在ウクライナの加盟申請が話題になっていますが、そのEU加盟国の一つです。キプロスが第一回伝道旅行の最初の訪問地として選ばれたのは、ここがバルナバの出身地であったことが考えられます。4章によりますと、彼はこの島に持っていた畑を売り、その代金を使徒たちの足もとに置いたと記されています。資産家であったのでしょう。
この島ではローマ帝国の高官との出会いがありました。セルギウス・パウルスという人物です。きっかけはユダヤ人魔術師バルイエスを通してです。その男が地方総督と親しく交際していたのです。セルギウス・パウルスはローマ帝国の地方総督ですから、社会的地位のある人物です。しかも「賢明な人物」と紹介されています。そのような教養のある優れた人が、どうして魔術師、偽預言者と称される宗教家と交際していたのでしょうか。しかしこういうつき合いは必ずしも矛盾するわけではありません。この世的な賢明さは社会では必要なものかもしれませんが、信仰においては役立たないどころか、むしろ弊害にさえなることさえあるからです。
地方総督はバルナバとパウロの話を聞こうとしましたが、偽預言者はそれを邪魔しようとしました。日本における戦国時代のキリシタン伝道、明治維新後のプロテスタント伝道の足跡を見ても、各地域の有力者との関わりが伝道の拠点となっていくことが分かります。もちろんそこにはいろいろな困難もありましたが、この高官との接触は、そうしたことを思い起こさせます。
パウロは信仰の確信をもって魔術師の間違いを指摘し、またキリストの福音を総督に語りました。その結果、彼らの訪問に心を開いていた総督は、主の教えに驚き信仰に入りました。この人はそれまでさまざまなものに縛られていました。ローマの神々への信仰、そこから来る風習、またこの世的な力や価値への信仰などです。
日本の伝道においても東京や大阪など都市部とは違って、もっと地方に行けばそこには今も昔ながらの風習が生きています。私がいた三次教会の史料には、日中に家庭集会を開いた時、明るいうちに歌を歌っているとは何事かといった誤解を避けるため、心の中で歌っていたという記録があります。また主に兼業農家の場合ですが、日曜日にも仕事もせず、聖書を持って教会へ行くとは……といった家族や周囲の目もあったようです。
キプロス島はこれまでキリスト教信仰とは無縁でした。その分、さまざまな宗教があり、人を不自由にする因習に縛られてもいました。今、聖書の話を聞いたこの地方総督は、キリストの信仰から来る力ある出来事を目の当たりにして、心の目が開かれました。そして信仰者となりました。以前は自分中心の生活、偽りの日々、そして罪のために死んでいましたが、ここにおいて新たな命へと生き返ったのです。(高橋牧師記)

